50歳で早期退職し、セミリタイア!

私セイルは50歳で早期退職、セミリタイアしました!その思いを綴ります。

人の贅沢がエスカレートしていく仕組み(象箸玉杯)

 一点豪華主義のつもりが、贅沢がエスカレートしていき、ついには身を滅ぼしてしまう。

 いかにもありがちな話ですが、それは現代日本だけではありません。古代中国にも同様の話がありますので、書いてみます。

目次

 

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 《東京都青梅市:彼岸花》

象著玉杯、酒池肉林の故事

 今私が読んでいる『韓非子』。

 これまで半分くらい読みましたが、同様の説話が二ヵ所に載っていました(「喩老」篇と「説林」篇)。ここでは、両篇の文章を、私の方で適当に合体させて紹介します。

昔者、紂為象箸、而箕子怖。

 昔、[殷の王である]紂(チュウ)が、象牙の箸を作らせたところ、[家臣の]箕子(キシ)は、そのことに恐怖を抱いた。

 中国の王朝は古い方から夏、殷、周…とされていて、うち、殷は紀元前17世紀から紀元前1046年までとされています。その最後の王が「」であり、屈指の暴君として古代中国史では超有名人です。

 あるとき、紂王が象牙の箸を作らせたところ、家臣の箕子がそれを見て感じることがあり、恐れをなした、ということです。

 

「以為象箸、必不加於土鉶,必將犀玉之杯」

 「象牙の箸を作っておいて、素焼きの土器(土鉶)に食べ物を盛り付けるなんてことはあり得ない。サイの角や宝石で出来た杯(犀玉之杯)に盛り付けるに決まっている」

 

「象箸玉杯、必不羹菽藿,則必旄象豹胎」

 「象牙の箸や宝石の杯を使っておいて、食べるものが、豆や豆の葉のスープ(羹菽藿)といった粗食はあり得ない。カラウシ()や象、豹の子供といった珍味を食べるに決まっている」

 

「旄象豹胎、必不衣短褐而食於茅屋之下,則錦衣九重,廣室高臺」

 「カラウシ、象、豹の子供を食べるのに、短い野良着(短褐)を着てかやぶき屋根の下にいるなんてことはあり得ない。錦の衣を幾重にも着て、高台の広い部屋で食べるに決まっている」

 箕子という人は、かなり鋭い直感を持っており、紂王が、象牙の箸の一点豪華主義に留まらず、どんどん贅沢がエスカレートしていくと予想します。

 

「稱此以求,則天下不足矣。吾畏其卒,故怖其始」

  「王の求めに応じて、こんなことをしていったら、天下の物が丸ごとあっても足りないぞ(天下不足)。私は、その行く末が恐い。だからその発端[象牙の箸]を怖れるのだ」

  贅沢にはキリが無いもの。ましてや、一国の王ですから、その気になれば一国の贅沢品を全てかき集めることができます。それでも、まだ足りない、もっと持って来い、などと言い出しかねない。

 そうなってしまったときのことを考えると、たかが象牙の箸とも言っていられないわけです。

 

居五年,紂為肉圃,設炮烙,登糟邱,臨酒池。紂遂以亡。

 そうして5年。紂王は、肉を田んぼのように敷き詰めて(肉圃)、焼肉の炉(炮烙)を設け、酒かすの丘(糟邱)に登って、酒の池(酒池)を見渡すまでになった。こうして紂王は亡んだのである。

 象牙の箸を作ってから早5年。箕子が言ったことが当たり、メチャクチャ盛大な焼肉パーティーを開くまでになっていました。

 しかし贅沢が過ぎて、恐らく人々の反感を買いすぎたのでしょう。紂王は殷という国とともに滅ぼされ、周にとって代わられたのです。

 

故箕子見象箸以知天下之禍。

 箕子は象牙の箸を見て、天下の禍(わざわい)を知ることになった。

 

聖人見微以知萌,見端以知末。故曰「見小曰明」。

 聖人というものは、微かな事象を見るだけで、大きな出来事の兆しを察知するものである。些末な発端を見るだけで、その行く末を見抜くものである。[老子では]「小を見て明を見る(見小曰明)」と言っているが、それはこのことである。

 この説話から導かれる教訓というのは、「見小曰明」、つまり、国の滅亡といった大事件を察知するためには、「象牙の箸」という些細な事柄にもアンテナを張っておくことが必要なのだ、ということです。

  以上が、象著玉杯酒池肉林の故事です。

この話は多分、史実ではない

 ただこの説話は多分、伝説であって史実ではありません。そもそも、殷の時代に箸があったのか相当に疑わしいからです。

 殷を滅ぼした周が、殷の悪宣伝をするために後世になって作った話、というのが妥当でしょう。

 近代になって、「甲骨文」という殷王朝の一次文字資料が出土し、それを分析したところ、紂王はそこまで悪い人ではなかった、ということが明らかになっているようです。

 ただ、象がかつて中国にいたというのは本当らしいです。でなければ、「象」という象形文字など誕生しようがありませんから。詳細は次のサイト参照。

 

 なお、本項の記述は、次の書籍を参考にして書いています。

漢字の字源 (講談社現代新書)

漢字の字源 (講談社現代新書)

  • 作者:阿辻 哲次
  • 発売日: 1994/03/16
  • メディア: 新書
 

「贅沢はエスカレートするものだ」がもう一つの教訓

 作り話だったとしても、このような話がそれなりの説得力を持って書物に取り上げられ、それが現代に伝わっているということ自体、興味深いものです。

 この話の教訓は、先にも述べた通り「見小曰明」でありますが、当ブログ的には、「贅沢はエスカレートするものだ」をもう一つの教訓として提唱したい。

 贅沢がエスカレートする仕組みとしては、贅沢の連鎖でしょうか。象の箸を作ったからには、やはりそれに見合う食器、食べ物、家がなくてはならない。一点豪華主義だと割り切れる人がどのくらいいるのか。

 現代でいえば、すごく贅沢なスーツを買ったとすると、それに合わせて、ネクタイやタイピン、Yシャツ、靴、腕時計などの高級品も欲しくなってくるわけです。

 あるいは、高級な自宅を買った後、それに合わせて生活が派手になっていき、教育にも金をかけるようになって、首が回らなくなっていくなど、ありそうなパターンです。

 贅沢をしてはいけない、というつもりはさらさらありませんが、分をわきまえて、このような贅沢の連鎖には陥らないようにしたいものです。

 

 今回紹介した『韓非子』には、

  • 最強の矛で最強の盾を突いたらどうなるか答えられなかった話(矛盾
  • うさぎが株にぶつかるのを待って身を滅ぼした話(守株待ちぼうけ
  • 大人しい龍でも、鱗が逆さに生えている部分に触れると怒り狂う話(逆鱗)。
  • 良薬は口に苦いとか、忠言は耳に逆らうという話

など、面白い説話が沢山載っています。『論語』は理想主義過ぎて微妙、という人でも、この本なら現代にも通ずるリアルな人間観で楽しめます。

「韓非子」を見よ! (知的生きかた文庫)

「韓非子」を見よ! (知的生きかた文庫)

  • 作者:守屋 洋
  • 発売日: 2009/04/20
  • メディア: 文庫
 

 

 

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