早期リタイア者のみならず、不労所得者、ニート、専業主婦等、いわゆる「労働」「仕事」をしていない人たちに向けられがちな「憲法の『勤労の義務』違反」。
一方で、労働していないにも関わらず、この手の批判からフリーな人々がいます。それが「定年退職者」。
体力や頭脳の衰えがあるにせよ、皆が皆、60歳や65歳になったら一律に労働不可能になるわけではないのだから、「人間、働ける限りは働くべきだ! なんたって憲法の勤労の義務が憲法で定められているのだからな!」という主張があってもいいはずだけど、そのような主張にはお目にかかったことがない。
その背景について考えてみました。
本稿は、次の過去記事の続きみたいなモノです。
目次
《東京都八王子市:川の上流端標識(多摩川支流浅川水系・川口川)》
「勤労の義務」は定年後には免除される、という暗黙の了解
憲法に「勤労の義務」というのが謳われているのは確かだけど、それに基づいて、法律で「労働者は、定年退職までは勤労しなくてはいけない」みたいにされて規定されているわけではありません。だから、勤労の義務から定年退職者を一律除外する法的な根拠は無いと考えられます。
にも拘わらず、なぜ定年退職者に向けて「勤労の義務違反」だと言わないのか?それは、定年まで働いたら勤労の義務は免除される、という暗黙の了解があるからですね。
さらに言うなら、「勤労の義務違反」で他者に攻撃コメントしているご本人が、そもそも「自分は勤労の義務を全うして人生を終えよう」などと思っていない。
ニートなど、自分とは境遇の異なる他者を攻撃している分にはいいが、これを突き詰めていってしまうと、最終的に自分に降りかかってきかねないから、定年退職者については(無意識のうちに)触れないようにしている。
こんなところだと思うので、勤労の義務の扱いを定年を境に変更することの根拠は薄弱で、このようなご都合主義に、ニートや専業主婦(主夫も)の人が流される必要は無いんじゃないでしょうか。
「定年までは働くべき」という社会規範が「暗黙の了解」を生んだ
しかし、逆に言えば、各企業が必要に応じて個別に定めているローカルルールに過ぎないはずの「定年」という制度が、このような暗黙の了解を、なんともナチュラルに生み出してしまう、というほど、重いものになってしまっているのも事実。
法律上、「定年を設ける」ことが企業に義務化されているわけではありません。「定年を設ける場合は、60歳を下回ることができない」というだけのこと。
ただ、日本では、ほころびはあるにせよ、何だかんだで新卒一括採用と終身雇用が幅を利かせていますので、それと相まって定年制度が非常に定着している。あまりに定着しすぎて、それが「企業のローカルルール」を超えて、「定年までは働くべきだ」というのが社会規範化されていった。
そして、この裏返し「定年を過ぎたら働かなくてもよい」が暗黙の了解となった。
もっとも、論理的には、「定年までは働くべき」から「定年後は働かなくてよい」は、直接導かれる命題ではありません。でも、人間社会というのは完全な論理で動いているわけではありませんからね。
とにかく、定年というのを大きな区切りとして見なす傾向が強まった結果、上記のような「個人での憲法解釈」にも大きな影響を与えているわけです。
定年を絶対視してしまう人たち
定年を大きな区切りとして考えること自体は別に良いと思うのですが、これを絶対視し過ぎない方がいいのでは?と思います。
最近、「定年が65歳まで引き上げられる!」と話題になりましたが、このとき「65歳まで働かせる気か!」と、激怒していらっしゃる方々がネットで大量に現れました。
別に、これは一律65歳に定年を引き上げろということではなく、「希望する人には65歳まで働いてもらえる制度を企業は設けてね」ということであって、大抵の企業は、これまで通りの再雇用システムを維持して終わりだと思います。
あるいは、65歳に定年を引き上げる企業であっても、65歳まで働かないと退職金の面で大いに損するなんて体系にするとも思えないですし。
だから、「何歳まで働くかの選択肢が増えた」程度の話でしかないのですが、これに対して、「65歳まで働かせる気か!」と噛みつくのは、何というか、「定年という発想に縛られ過ぎて、政府の言う『○歳まで働く』を、すべからく国民が実践すべきモノ」と思いこんじゃっている、ていうか。
お上を批判する人ほど、実は、お上の言うことを絶対視しちゃっている、という風に見えてならないんですよね、私には。
でも、分相応の生活を、計画的に続けていけば、早期リタイアとは言わなくても、60歳にリタイアすることくらいは、充分に可能な人が大半だと思うんだけどな、今の日本なら。
60以降は、働いても待遇がガクンと落ちるのが普通だろうから、政府が何と言おうと、60までに辞められるように人生設計していけば、上記のような話にいちいち過剰反応することもありません。
「暗黙の了解」的なことに順応し過ぎて、かえって柔軟性を失ってしまった人が多いんだな、と感じます。
★初めてお越しの方へ。以下にて私のセミリタイアの概要をまとめてあります。
⇒50歳でセミリタイア達成!その概要を書きます