今日は次の人生相談を。
【玉置妙憂の心に寄りそう人生相談】子どもは巣立ち仕事も定年…私の生きがいは?(女性自身)
(略)
私は15年前に離婚してから女手一つで2人の子どもを育ててきました。今ではその子どもたちも成人に。自分の元から巣立っていきました。
私は若い頃から子どもだけが生きがいで、これといった趣味もなく、親しい友人もいません。今では定年を迎えて仕事もなくなり、一言も言葉を発せずに終わってしまう日もあります。
(略)
元気な老後を過ごしたいと思うのに、この先の老いていく私に希望が持てません。(女性・61歳・無職)
私は夫婦二人暮らしですが、あまり人と交わることもなく、この相談者と似たような境遇のため、色々と思うところがあります。
目次
《埼玉県秩父郡皆野町》
定年前は、退職後の生活について研修がある
相談者は、定年や子育てが終わって、燃え尽き症候群みたいになっている状態。こういう状態はよくないもの、何とかしなければならないもの、というのが相談者の頭に植え付けられてしまっているが、いかんともしがたいようです。
以前の職場で受けた退職後の生活に関する研修では、趣味やボランティア、地域活動、人との会話が重要であることを教えられましたが、その重要性はわかっても、人付き合いが苦手な私には、いまひとつ前に踏み出せません。
つい読み飛ばしてしまいがちですが、定年が近くなると、「退職後の生活に関する研修」なんてことを、職場がやってくれる、という話は聞いたことがあります。私は、定年前にリタイアしたので未体験ですが、インターネットで検索すると、結構出て来ます。
以下、その一例。
キャリアデザイン研修 第2の人生に向けて生きがいを考える(1日間):現場で使える研修ならインソース
1.はじめに
【参考】老後生活の満足度について2.定年がもたらす変化
【ワーク】第2の人生を迎えるにあたり楽しみにしていることと不安に思っていることを共有する(略)
【参考ワーク】これから起こりうるライフイベントを書き出し、必要なお金を計算する
【参考ワーク】生活費の算出
(略)3.第2ステージへの礎 ~これまでを振り返る
(1)これまでの職業経験を振り返る
(2)自分の認識を整理する
(3)自分を成長させた出会いについて振り返る
(4)他者の経験を知る
(5)やり残したことを振り返る
【ワーク】本当は興味があった・やりたかったけど、できなかったこと・諦めたことを書き出す4.第2ステージを充実させる ~生きがいづくり
(1)充実とは何か
【ワーク】充実した人生や生活と聞いて、思い浮かぶキーワードを洗い出す
(2)生きがい探しマップ作成
【ワーク】テキスト記載の作成方法を参考に、生きがい探しマップを作成する
(3)生きがいを矢印から探す ~高く・広く・深く
【ワーク】これからの生きがいになりそうなものを3つあげる5.「自分人生史」の作成
お金に関する部分は良いでしょうし、全面的に否定するものではありませんが、個人的にどうもなーと思う部分もあります。
それは、ワークとして、「本当は興味があった・やりたかったけど、できなかったこと・諦めたこと」「充実した人生や生活と聞いて、思い浮かぶキーワード」などを書き出させ、それらをもとに「生きがい探しマップ」なるものを作成させられる、という部分。
この方式がいかにも会社員的。
私も現役時代、「我が社の強み」なんかを書き出させられ、キーワードをマップに記して、「わが社の新しい事業戦略」を見つけ出す、なんてことをさせられたのですが、それと全く同じ方式で笑いました。
もう会社員じゃなくなるんだから、そういう会社員的発想から抜け出した方が幸せになれる人も多いと思うんですが、そもそも、この研修の企画者自身、定年などまだ先の会社員の身分なのですから、会社員的発想しか持てないのも仕方ないか。それに、他社から講師派遣要請が受けるためには、会社員的な研修をしないといけないんだろうし。
おそらく、冒頭の相談者も、この手の研修を受けさせられて、「趣味やボランティア、地域活動、人との会話が重要である」と吹き込まれ、それが達成できない自分に焦りや絶望を感じているのでしょう。
相談に対する回答
これに対して、玉置妙憂さんという女性のお坊さんの回答者は、戦闘ゲームのエネルギーチャージを引き合いに出した後、次のようにおっしゃっています。
これまで子育てに仕事に、わき目もふらずエネルギーを注いできたターンが終了して、今はじっとエネルギーをチャージするターンになった。でも、いずれエネルギーがたまれば、また動き出すターンになります。
それまで、気楽にぼーっとしていましょうよ。
(略)
あ、それから。研修でお聞きになった趣味やボランティアや地域活動。ちっとも重要じゃないです。一歩踏み出す必要なんて、さらさらありません。ひとの退職後の生活にまで口を出すなって、言ってやりましょう。あなたの「これから」ですから。(略)
これはなかなか見事な回答です。
定年アドバイザーみないな人だと、自分自身が「退職後の成功者」であることも手伝ってか、
「やはり、『趣味やボランティアや地域活動』のようなことは、定年後の生きがいのためには大切ですからね~。一歩踏み出すためには、こうしてみたらいかがでしょう。」
みたいなアドバイスに走りがちなところ、
「ちっとも重要じゃない」
と、誤解を恐れず、喝破しているところが実に気持ちいい。「生きがい探しマップ」を作成させている、定年などまだ先の研修講師などには思いも浮かばない話でしょう。
もちろん、趣味やボランティアや地域活動を全否定しているんじゃないんだと思います。
その手の「有意義な活動をしなければならない」という意識に縛られて不幸になるようでは本末転倒なので、それに囚われることはないよ、ということを強調しているのでしょう。
リタイア後にまで「ねばならない」に囚われてしまう理由
現役時の仕事においては、「こうであらねばならない」ということが本当に沢山あった。例えば・・・
- 出勤には遅れてはならない。
- コミュニケーション能力を磨かなくてはならない
- 常に報連相を意識しなければならない
- 常にユーザー・お客様の立場に立って考えなくてはならない
- 人のために役立っていなくてはならない
- 仕事を通じて、自身を成長させなくてはならない
など。
こういうのは、本来、仕事を進めていく手段だったはずが、いつの間にか「そういうことをしていないと、人間として堕落していくものだ」みたいに変換されていった。
現役時はそれでよくとも、退職後は上記のような「ねばならない」はなくなってしまうので、新たな「ねばならない」を作ろうという話になります。
もともと「仕事を進めていく上での手段」に始まった話が、何故か、仕事を辞めて以降にも通用する、人生の善し悪しを決定づける普遍的な要素として扱われているわけです。
それが、先の相談の「趣味やボランティアや地域活動」。あるいは、以前、当ブログで書いた次のようなこと。
日本社会は、「社会とつながる」とか「コミュニケーション能力」をやたらと賛美する風潮がありますが、このような社会の風潮が、かえって問題を作り出している側面もあるんじゃないですかね。
「働く」とか「社会と繋がる」なんてのは手段に過ぎないという考え方もあるから、そこに至高の価値を置いて、自分がその域に達していないと悩む必要なんてないよ
こういうのって、結局、現役時代のあり方を至善のものとして、退職後もそのあり方を延長するという発想なんです。
それでうまくいく人はいいのですが、全員がそうではなく、退職後は現役時代とは別の発想に切り替える、という考え方に従った方が幸せになれる人も少なくないんだろうと思います。
仕事を辞めた今は、別に、人の役になど立たなくてもいいし、生きがいなんて齷齪(あくせく)探し回るものでもない。非生産的なことが許されるのが退職者の特権なのだから。
先の相談の回答は、
エネルギーがたまれば、あなたの中のなにかがきっと動きはじめます。
と結んでいますが、何かやりたくなったら、その時やればよいのです。行き当たりばったりも退職者の特権です。
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